10年の「経験」が保障する司書の能力
日図協が構想している「上級司書」の条件のおおよそなものは、
・日本図書館協会に所属していること
・論文を提出すること
・研修を受けること
と、
・司書資格取得後10年以上の勤続経験を持つこと
である。
もしこの資格が実現すれば、司書=専門職?論議での問題の一つであった、「職能団体」については解決することになる。
また、一般の司書資格よりも能力があることを保証する新しい資格は、司書の就職問題の打開策としても期待されるだろうし、今までの司書のイメージを改善するきっかけとなるかもしれないし、可能性だけの話だけれど、そういったことのために今まで多くの人から望まれてきた。
で、タイトルから大体想像がつくかもしれないが、このエントリで言いたいことは、「10年の「経験」が保障する司書の能力は、資格認定に本当に必要なのか」ということ。そんな条件はなくなればいいのにと私は思っているのです。10年とかふざけるなよと。
なぜ「10年の経験」が必要なのだろう?
と思うと、この記事にあるように、
<司書07年問題>今後5年で半数定年 都立図書館ピンチに - 児童書読書日記(仮)
「一人前の司書になるには10年かかる」という日本図書館協会の考えがあるようだ。
(ちなみに、この「上級司書」に関する条件を勘案する際、パブリックコメントで「一定以上の実務経験を条件に課す(最低でも5年以上)」ことを意見され、その回答に「実務経験は10年以上に設定した」とある“「高度な専門性を評価する名称付与制度」について 中間報告”パブリックコメントへの回答(PDFファイル)(2003.3.12) )
資格の認定に勤務経験を課すこと自体は、おかしくもないしまっとうなことだというのが、周囲から得られた反応。教えていただいたものに、そういった勤務経験を重視することはイギリス型の司書資格っぽいのだということ。そこで調べてみたのだけど、イギリスでは協会の会員申請をするのに1〜2年の実務経験が必要であり、そこからさらに上位資格に申請するためには、5年の専門的経験とその他の条件を満たすことが必要だとのこと。
「これからの図書館の在り方検討協力者会議」(第5回)配付資料 主要国の司書養成教育および資格・司書職制度の現況(韓国、米国、英国を中心に)−文部科学省
特徴では確かに「大学院レベルの専門知識と実務経験」の資格制度とある。他分野から図書館情報学分野への参入を推奨し、学位がない場合は実務経験をもって職業的・知的訓練を課すとある。
しかし、いくら実務経験を重視するといっても、5年と10年は大きく違う。日本図書館協会の描く5年ではない「10年」の具体的根拠とは何なのだろうか。私には分からない。
「10年」は本当に今の日本の司書制度に対して妥当なのだろうか?
今、数少ない公共で正規の職員として働いている方の多くは女性である。例えば、4年制大学を卒業して運良く最短コースで正規の司書に採用されたとして、司書として働くのは22歳から。女性にとっての22歳から10年間というのは、結婚や出産などのあらゆる出来事が起こる時期でもあり、安定して働くことのほうが少ないのではないのだろうか?(どこからか統計を引っ張ってこれたらかっこいいのだが、面倒くさいので割愛)*1
また、公共図書館に採用されるには、市の職員などになるのが一般的ではあるが、市の職員となって働く際に問題とされるのが、制度として「異動」が
あり、司書資格があるからといって一つところに安定して配属される保証がないことでもある。
制度的に、「10年の安定した勤務」が保障されていないのに、そんなことを求めても、と思うのだけれど、どうなのだろう。
10年の実務経験を求める、つまり、それは10年も働かないと一人前になれないよー、と言うことなのだろうが、そこまで司書の職業は複雑かつ専門的であり、経験しなければ学べない職業なのだろうか。私たちがこうして大学で4年間学んでさえなお、10年現場で学ばなければ司書のスペシャリストになれないのだろうか。
この疑問に対しては、働いたことのない自分は何も言えませんが