正統派図書館漫画、誕生!/埜納タオ「夜明けの図書館」

  
これは公共図書館の歴史を変える一冊だ。
「レファレンスって何?」って聞かれても、この一冊を差し出せば済むようになるのだから
  

夜明けの図書館 (ジュールコミックス)

夜明けの図書館 (ジュールコミックス)

その疑問、新米司書がお手伝いします。

市立図書館で働く新米司書・ひなこ。
「調べもの」を通して、本と、人と、心を繋ぐ。
ほんのりあったか、図書館マンガの誕生です!(帯より)


  
就寝前にこの本を読み終わって、さあ寝よう、と思っても、興奮冷めやらず、どうしても寝付けずにこの記事を書いている。
ページをめくるごとに、今さらながら、図書館ってすごい、レファレンスってすごい、そんな思いで胸がいっぱいになった。こんな感情は、大学に入ってから初めてだ。今まで、図書館について勉強すればするほど、なにか大切な物を忘れていっていたんじゃないだろうか。そんな気持ちになった。
言い過ぎを承知で書くが、図書館で働く人、図書館が好きな人、図書館に関わる人はみんな、この本を読むべきだと思う。そして、ひとりでも多くの図書館を知らない人に薦めるのだ。公共図書館は貸出用と館内閲覧用の2冊は購入して、カウンターの横に並べておくべきだ。
私も誰かひとりでも多くの人に読んでもらいたくて、今から「何が素晴らしいのか」を紹介する記事を書く。この本を読んで、図書館って良いな、そう思ってくれる人がひとりでも増えたら、それは図書館界全体の幸せだと思うからだ。
この本の作者、そしてテーマを進めた担当者の方には感謝してもしきれない。こんなに素敵な、図書館の話を描いてくれてありがとう。そう伝えたい。
  
  
(以下ネタバレ込みの紹介です)

あらすじ

実は先ほど掲載した帯の一文には、以下の文章も掲載されています。

  

利用者の調べ物をサポートする「レファレンス・サービス」。
難問・奇問の裏に隠された真実とは…!?

  

けれど、「レファレンス・サービス」なんて言われたって、普通の人はなんのことだか分かりません。
冒頭6ページ目で、ひなこは「レファレンス・サービス」を以下のように説明しています。

  

みなさんはレファレンスというサービスをご存知でしょうか?
利用者の”知りたい”を調査・お手伝いする仕事で
図書館において重要な業務なのです

  

かつてこれほどまでに、レファレンス・サービスを簡潔明瞭に言い表した言葉があったでしょうか。
ひなこはこう続けます。

  

たとえば 昔読んだ本をもう一度読みたい
あるテーマについて詳しく知りたい など
珍問・奇問から難問まで、よろず答えを求められるのです

  

『夜明けの図書館』は、新米司書ひなこが、そういった奇問難問に健気に立ち向かい、レファレンスを通して利用者との心の交流を描いていくストーリーです。
第一話では、念願の司書になれて張り切るひなこが、おじいさんから何十年も昔の郵便局舎の写真を探すレファレンスを受けます。なかなか見つからず、仕事も不慣れで空回り気味になりますが、おじいさんの「知りたい」に答えるために、一生懸命に探します。二話では父親の恋文を解読するために、くずし字のレファレンスを、三話では「嘘つきじゃない」ことを証明したい子供のレファレンスを、四話では郷土にまつわる都市伝説の真相をたどるレファレンスを受けます。
ストーリーの軸となるレファレンスやその過程も面白いのですが、さらに魅力的なのは、ひなこのやる気や他の職員の葛藤など、図書館にまつわる心理描写が酷く現実的に描かれていることです。

  
例えば、第一話冒頭でひなこは暁月市立図書館に勤められるようになったことをとても喜んでいます。というのも、ひなこは司書になるために3年も努力を続けたからです。
  

3年もの就職浪人の末
高倍率の中
このたび奇跡的に採用に至り

  

図書館に勤めたいと一度でも思ったことのある人なら、この言葉の重みがひしと伝わるのではないでしょうか。そしてひなこの嬉しさがリアルに感じられるはずです。
また、同じく冒頭でひなこは「暁月市」という地名に疑問をもちます。「暁月って地名、どういう意味があるんだろう?」と考え出したら止まらず、「む、む〜〜〜〜知りたくなってきた 地名辞典のってるかな」と自転車運転の最中にも調べごとに夢中になってしまいます。
この描写でひなこの調べることに喜びを感じる性格が表されており、「本と人を繋げる仕事(=司書)」になりたいと思っていたことに納得がいきます。
  
ただし、レファレンスが世間的に認められていないのは、現実でも本の中でも同じです。レファレンスに答えようと意気込むひなこに、同僚の大野(市役所から転属)が冷たい言葉を浴びせます。
  

そもそもそのレファレンスってどうなの?
予算しぼんでいく一方でいくら行政とはいえサービス過剰と思うけど
こっちはぎりぎりの職員体制でやってる訳だし
それに今の時代欲しい情報を得る手段はいくらでもあるだろ
はっきりいって時間と労力の無駄

  

これも当然の言葉。第三者から見れば、レファレンスは時間も労力もかかり、決して効率的なサービスではない。これに対してひなこは反発し、絶対レファレンスに答えてみせるとさらび意気込んで空回りします。果たしてひなこはレファレンスを通して何が出来るのでしょうか…?
  
というのが、『夜明けの図書館』の導入部分になります。レファレンスを主軸にした図書館漫画。でも、『夜明けの図書館』の魅力は、それだけではありません。図書館にまつわるリアリティ、これも大きな魅力です。
  

修理にだそうと思ってよけておいた本が書架にないってクレームが!なんて業務のミスに始まり、『夜明けの図書館』に出てくる図書館話はどれも現実味にあふれています。
例えば、最初はいけすかない同僚の大野は、市役所から図書館に配属された一般行政職員。司書資格もなく、同僚にささやかな劣等感を抱きながら図書館に勤めています。これが本当に俺のしたかった仕事なのか?そう疑問に思いながら。
もちろん臨時職員もいます。図書館のカウンターは大忙し。展示もイベントも企画するし、子供のレファレンスインタビューは聞き出すのが難しい。まるで図書館で働いていた人が描いたみたいな現実味ある描写に共感します。
  
なにより素敵なのは、ひなこの図書館とレファレンスに対する「本気」の気持ち。
  

ーーーーそうだ
本はいつだって”知る歓び”をおしえてくれる
想像する愉しみや
そこから生まれる豊かな感情をも
人と本を繋げていきたい
広く 深く
そう思って 私はこの場所にいるんだ ーーーだから
そう簡単に挫けていられない

  
この言葉にひなこの全てが表れています。そしてその気持ちにブレずにまっすぐ進んでいく姿が、利用者にも伝わっていくささやかな感動。
  
  
図書館員になりたい、なんて気持ちは何年も前になくなったはずだったのに、読み終わってみると「図書館っていいなあ。働いてみたいなあ」そう思う自分がいることにびっくりしました。こんな図書館員になりたい、というのは、図書館を志した人なら分かってもらえる気持ちだと思います。
それくらい、ひなこのレファレンスが良いものであったこと。だから、ぜひ「レファレンス・サービス」を知らない人達にこの本を読んでもらいたい。そうすれば、図書館の良さを少しでも身近に感じてもらえるのかな、と思います。


※追記
どうやら『夜明けの図書館』はこの一冊で完結のようです(雑誌の続きの号に掲載がなかったので)。
この一冊だけでもレファレンスの魅力はありますが、もっと見てみたかったな、と少し残念です。

ちゃんと見てみたら、どうやら毎月掲載されているわけではなく、不定期掲載なんですね。
ということで、今後ももしかしたら描き続けてくださるかもしれません。楽しみ!
ここはぜひ、非正規職員の葛藤とか、カウンターロマンスとか、いろんな図書館の姿を見てみたいですね!