篠原ウミハル「図書館の主」

  

図書館の主 1 (芳文社コミックス)

図書館の主 1 (芳文社コミックス)

  
図書館の主 2 (芳文社コミックス)

図書館の主 2 (芳文社コミックス)

  

(以下ネタバレあり)

  
「図書館の主」は私立の児童図書館を舞台にした図書館漫画です。タチアオイ図書館で働く司書の御子柴くんと児童書をテーマに、図書館や物語にまつわる出来事などが描かれています。帯の文句にあるように、基本的には児童書がメインなのですが、私立といえど図書館にまつわる話も細かく描写されているのがポイントです。
例えば2巻収録の第11話「書店と図書館」では、お客さんが自分よりも御子柴くん(司書)を頼るのに嫉妬した伊崎くん(書店の店員)が「あんたんとこみたいな図書館があるから 本屋の売上が落ちるんじゃないか!!」「お前ら図書館が本を潰しちまうんだよ!」と声を荒らげて詰め寄ります。
そんなとき、伊崎くんの上司が図書館に来館し、伊崎くんは自分の勤める書店からタチアオイ図書館が図書を購入していることを初めて知ります。一冊や二冊購入したって、たくさんの人がそれを借りていくじゃないかと反論する伊崎くんに、御子柴くんは冷静に図書館が一冊に対して一年に貸し出せる人数はそう多くないことを指摘した上で、さらに言葉を続けます。

  

自分が好きだと思う本を見つけた子は 本を読むことの楽しさを知ることができる
本を読む楽しさを知れば 自然と読書量も増える
本を読む習慣を身につけることができるんだ
そうなると借りるだけじゃ物足りなくなる 自分の手元に置きたい本が必ず出てくる
本を読む習慣の出来た子は 自然本を買うようになるだろう

  
これに対して、伊崎くんの上司もこう続けます。

つまり図書館ってのは 自分で本を買って読むきっかけを与えてくれる所なんだよ
図書館で本を知って 本屋で本を買う
図書館と本屋ってのは そんな関係でありゃいいって俺は思うがね

  

この言葉がすごく好きになりました。図書館情報学的には貸本屋論争といって図書館と出版社の対立は重いテーマになっていますが*1、重い話に気を取られて、大切な事を忘れていたことに気付かされます。もちろん出版社の方には日々の暮らしがかかっているので、こんな安易で楽観的な考え方にはならないと思いますが、図書館も本屋も、本を読む人がいなければ成り立たないということ、何より大事なのは本への興味を持ってもらうことを実感しました。
第11話は図書館寄りな話でしたが、全体的には児童書の物語と登場人物、特に子どもとの関係などを上手く絡めて描いている漫画で、思わず児童書を読み返したくなること請負です。
ちなみに、取材協力;千代田区千代田図書館及び国立国会図書館国際子ども図書館らしいです。図書館で学んだ人が起業家になったり本を出版したりという話は聞きますが、「夜明けの図書館」も含めて、図書館を取材して図書館漫画というのも良いですよね。
    

先日レビューした「夜明けの図書館」やまだ記事にできていない「草子ブックガイド」「鞄図書館」といい、最近は図書館漫画が豊作で嬉しい限りです。漫画や小説で図書館が扱われるたび、多くの人に図書館がどんな場所か、レファレンスとは何なのかということを知ってもらえます。特に漫画の良いところは、絵の描写や簡潔で力強いセリフで読者により分かりやすく、伝わりやすく、印象の強い伝達手段だということです。図書館は多くの人に知ってもらわなければ、使ってもらえません。使ってもらわなければ、その良さを知ってもらえません。でも漫画があれば、利用したことのない人でも図書館の良いところが伝わって、「行ってみたい」「本を読んでみたい」と思ってもらえます(もちろん小説も同じです)。だから図書館漫画がもっと多くの人に読んでもらえれば良いなと思いますし、これからもできるだけ紹介していきたいと思います。