図書館とマーケティング

竹内紀吉著「図書館経営論」の25.図書館員の役割と養成において、図書館員の今後の役割として情報システムのマネージャー、マネージャーとしての「政治的」活動(について書かれた文献)が紹介されている。
図書館の予算について決定権を持つだろう自治体に対し、図書館の活動について広く知ってもらうことが政治的活動であるとしている。図書館の予算が減ればどういう事態になるのかを説明し、図書館の必要性を訴え、予算を獲得することを目的とする。それを行うのも図書館員の役割だと述べている。*1
その「政治的」活動のひとつとして、マーケティングの手法(考え方)を取り入れられないかと最近考えている。マーケティングは主に企業など営利組織が利益を求めるために用いているイメージが強く、自然には受け入れられないかもしれない。けれど非営利組織のマーケティング*2という分野もあるし、マーケティング自体の考え方を当てはめるのはそうそう無理なことではないと思う。
たとえば、マーケティングにおける製品の概念は、「売り物」そのものではない。マーケティングにおける製品とは、企業が提供する売り物を用いて消費者が行うことの目的である。参考文献からそのままの引用になるが、穴あけドリルを売る会社があったとして、消費者はその穴あけドリルを買うことを目的としているのではない。ドリルを用いて「穴を開けること」を目的としているのであって、だからどんなに高性能高品質のドリルよりも、安価で手軽に穴を開けられるドリルを消費者はより求めているのである。この「穴を開ける」ということをマーケティングにおける製品の概念と位置付ける。
マーケティングにおいて、この「製品」の概念を理解せず、あくまで商品開発にこだわってしまうことをマーケティング近視眼という。そうではなく、消費者の真の目的を「製品」とし、消費者主体で考えることをマーケティング志向といい、それを実行する営利組織は多い。
その考え方を、たとえば図書館に当てはめてみるとどうだろう。図書館の「製品」とは、利用者が貸出サービスなどを利用する「目的」である。つまり、図書館が提供するサービスそれ自体ではなく、利用者の目的となる「知識を得ること」「娯楽を得ること」が図書館の「製品」ではないかと思う。
このように、図書館にマーケティングの概念に当てはめることは可能ではないだろうか。また、マーケティングの真意は消費者と企業のコミュニケーションをとることであり、これは「政治的」活動として、自治体関係者を含む一般市民に図書館についてより良く理解してもらうためのひとつの方法になるのではないだろうか。
もう一点。もしこのようなマーケティング志向の考え方に拠るならば、「貸出サービスがほかのサービスの土台となり、他のサービスは貸出を発展させる機能を持つ」「自然と貸出が充実する態勢を目指すべき」と述べる貸出サービス集中型の意見*3貸出至上主義ともいわれる?)は不適切だろう。「貸出サービス」も「他のサービス」も、それぞれ一つの手段として、利用者が「知識を得る」ための一助となるべきだと思う。
  
参考文献

図書館経営論 (新編 図書館学教育資料集成)

図書館経営論 (新編 図書館学教育資料集成)

1からのマーケティング

1からのマーケティング

公共図書館の論点整理 (図書館の現場 7) (図書館の現場 7)

公共図書館の論点整理 (図書館の現場 7) (図書館の現場 7)

それぞれの意見を分類してあって理解しやすい。
  
…というのを、不真面目に授業を受けながらちょっと考えてたのでした。

*1:竹内?.アメリカの公立図書館と図書館員.海外図書館員の専門職制度調査報告書.日本図書館協会.1994,p15-p16

*2:フィリップ・コトラー.非営利組織のマーケティング戦略.第一法規,2005,798p とかとか

*3:田村俊作,小川俊彦.公共図書館の論点整理.頸草書房,2008 より引用。個々の発言の引用元はそこ参照で