第5回図書館系勉強会「アメリカ図書館法について:その管理と運営を中心に」

筑波大学の隅っこで開催する図書館系勉強会も今回で第5回目を迎えました。ひと通り、参加者の発表が一巡したということで、今回は平山の2回目の発表になっております。記録は勉強会参加者で先輩の下山さんにとっていただきました。

勉強会についてはこちらをご覧ください。発表している内容については、個人の勉強した限りのことであり、内容の間違いなどもあるかもしれません。そのことをご了承いただいてご覧いただければと思います。

ちなみに、次回の勉強会(11/4(金))はid:min2-flyこと佐藤先輩が『 「読む」とはどういうことか:速読とメディア』というテーマで発表してくださるそうです!今からとっても楽しみですね!わーい!


今回の発表の動機

  • Library Board(図書館委員会)を知らなかった
    • ※図書館の管理のシステムの一つである。
  • 日本の図書館法制定時のアメリカの影響
    • 後年に変化させられたものの、初めはアメリカの影響が強かった。
    • 日本の公共図書館を語るために、アメリカの図書館についても理解する必要があるのでは。

アメリ公共図書館の歴史

公共図書館の基礎
  • 会員制貸出図書館
    • 年会費あるいは寄附で運営。職業に従事するための情報が提供される職業図書館。庶民、普通の人(=コモン・マン)も利用。

アメリカ独立前後

  • イギリスによる植民地の時代
    • 経営体図書館や会員制図書館が非営利団体として成立。
    • 図書館の根拠は、植民地議会や総督による憲章であった。
  • 1776年アメリカ独立宣言以降
    • それまでは図書館について特別法で制定されていたが、州議会で図書館法が制定されるなど一般法として扱われるように変化。

法によって定められた図書館の性格

  • スライド7参照。
    • 1は、土地を持ったり、モノを持ったりする権利。
  • 当時から受け継がれた特徴
    • 公共図書館の教育的価値が認められ、法の強制力をもつこと。
    • 図書館委員会による運営。
      • 会員制図書館の時代から、既に図書館委員会が登場していた。
      • 例えば、ボストン公共図書館を作るときには、会員制図書館の人(委員?)たちも一緒に会議をした。
      • アメリカにおける先進的な事例→「望ましい姿」として、後続の図書館は真似た。
  • 現在との大きな違いは、当時は税金による運営ではなかったこと。

図書館と課税

  • 課税の始まりは、学校区図書館において(1835年ニューヨーク州議会が決定)。
    • 課税の目的は、図書の購入。
  • 学校区図書館は、学徒はもちろん成人の利用も認めていた。

近代的公共図書館の普及

  • 1850年頃、無料の公教育が普及→一般市民の教育水準が向上→図書館に対するニーズの高まり
    • その他多くの社会的要因による後押しがあった。
  • 「都市があったら図書館が必要」という考えに。

アメリカの統治の仕組み

  • アメリカ=一つの国として見てしまいがちであるが、「たくさんの国が集まってアメリカができている」という認識の方が近い。
  • 州政府は独立的な性格。州から連邦に権限を委任している。つまり、委任されていない権限は連邦政府にはない。
    • 図書館を運営するためには、州から権限を取得する必要がある。
    • 州議会により制定される一般公共図書館法は、全く同じものは存在しない。

一般的な公共図書館法の基本的な規定

  • スライド13参照。
  • 一般市民で構成される委員会が基本。(日本の図書館協議会との違い)
  • 「消極的法律構成」…図書館は「作ってもよい」であり、「作らなければいけない(義務設置)」ではない。
    • →日本の公立図書館が義務設置でないということを批判する人もいるが、そもそも手本にしたアメリカが消極的法律構成。

図書館委員会について

図書館委員会の起源
  • 経営体図書館や会員制貸出図書館を管理運営していた図書館委員会が起源。
  • 19世紀後半からは、行政委員会が設置され、特定の機能の指揮、監督が任された。この制度は広く普及。
    • 図書館委員会は行政委員会の一つ。
図書館委員会の役割
  • 2タイプがある。
  • 1. Board of Directors:Administrative(管理運営の決定)
    • directorとは、役職の名前。日本では図書館長にあたる。
    • 決定権限がない図書館長は、Chief Librarianと呼ばれる。
    • 市長が委員会の委員を任命、委員会(権限を持っている場合)が館長を任命。
    • ※任命形式は、州により違いがある。
  • 2. Board of Trustees:館長の諮問機関
図書館委員会の一例(データは古めであるという断りあり)
  • シカゴの図書館委員会は、あらゆることに対する権限を持っている(スライド17参照)
図書館委員会の性格
  • スライド18参照。
  • 委員会のメンバーも様々であり、民主主義的な性格が非常に強い。
  • 対して、日本はトップダウン式の管理である。
    • 図書館協議会は一応作られているが、権限がない。一般市民もほとんどいない。
    • 初めの元となった思想はアメリカと一緒なのに、分かれてきてしまった。(平山さんの修論の着眼点)
図書館委員会のメリット
  • 様々な立場の住民の意見を反映させることができる。税金で運営しているのだから、当然ともいえる。
  • 政治的介入を防ぐ。
    • 市議会から独立できる。党同士の対立などの影響を受けない。
  • しかし、批判もある。
    • 行政の統一を図るため、リーダーシップを発揮した方が良いという意見。
    • また、専門知識のない一般市民から理解されない場合に。
  • ハワイの図書館職員さんとの対話から
    • 分野ごとの専門家が図書館職員として勤務していることをめぐって。
    • 運営資金の大半が人件費に割かれて、資料費が割を食ったり、専門のことは熟知している一方で、専門外のことはわからないという状況がデメリットになる場合もあるというお話。

まとめ

  • 日本の図書館協議会アメリカの図書館委員会は異なる。
    • ただし、Board of Trustees:諮問的図書館委員会の方がどのように働いているかは、文献が少なく今回は調査できず。
    • 日本と似ているか、相違点があるのか興味がある。
    • アメリカ=最善ではない。
    • 羨望しがちであるが、研究者の自戒として常に頭の片隅に置いておかなくてはいけない。

 

    • そもそも、アメリカと日本では、社会教育と図書館との関係性が異なる。
    • 日本は教育委員会の下にある。社会教育と切っても切り離せない(独立性がない)。
    • 例えば、2006年の教育基本法の改正が、2008年の社会教育法および図書館法の改正へ影響を与えた。
    • ex. 家庭教育の重視についての項目。
    • アメリカの場合は、独立したものとして考えているのではないか。理念は無視できない。
  • 日本は制度的には民主主義だが、住民参加の基礎ができていなかった。
    • 1990年代からそのような流れがあるものの、今後どう拡充されていくか。

 

質問・議論タイム

  • Q. DirectorとChiefの違いについて説明して欲しい。
    • A. 予算、政策の決定、人事権など、管理運営の決定権を持つかどうか。
  • Q. スライド17で急に「理事会」という語が使われているが、委員会と同義か。
    • 委員会と同義と考えて問題なさそう。
    • 行政委員会からの流れで、一般的には図書館「委員会」と訳すが、一語には定まっていない。
  • Q. 図書館長は図書館委員会から選ばれないのか?
    • A. 図書館委員会の委員は一般市民なので、図書館のスタッフになることはごく稀。
    • また、アメリカでは、内部昇進が一般的ではなく、公募することが多い。
    • 転職の頻繁さが社会的な下地としてある。

 

  • Q. TRCが図書館長を募集する事例があるが…。
    • A. 目的が違いすぎる。アメリカは、空いたポストに優秀な人材を充てるため。
      • Q. 日本も建前はそうなのではないか。
        • A. 確かに枠組みはそうかもしれない。
        • 補足1:給与の多寡も、良い人材がくるかどうかに影響する可能性がある。
        • TRCの募集要件には、「図書館をより良くする」という必要性が明示されていない。
        • 補足2:指定管理者の競争入札制度の中では、図書館をより良くしないと来期任されない。
        • 完全に経営努力を促すシステムにするためには、指定管理者の選定方法へのフィードバックが重要になってくる。
    • 日本では、行政と図書館は歴史的に対立してきた。
    • 歴史的な背景や理念の生成の歴史を知ることが重要。
  • Q. 委員会は大体どのくらいの人数か
    • A. それについては調査がなされている。
    • 州によって異なるが5〜6人が一般的。例外として22人(法人への委託)もある。
    • 任期は長く、5、6年。出ていくときに次の人を推薦したりする。
  • Q. 予定されている図書館法の改正では、図書館協議会の構成員についての要件が緩和されるが、どのような意図があるのだろう。
    • A. もっと住民参加をすすめたいのでは(地域の自主性)。
    • 影響を与えたと思われる答申にもそのような内容が書いてある。
    • 補足:協議会制度は50年も続いているが、これまでに醸成された性格は変わっていくのか。
    • 都立図書館は公募していたがやめてしまった。
    • 住民参加をすすめようという法律的な理念と、有識者など頭の良い人の意見が聞きたいという実態が衝突し、運営が失敗する可能性もあるだろう。
  • Q. 日本において図書館協議会が上手く運営されている事例はあるのか?
    • A. インターネット上に、報告書や答申を出している例は上手くいっていると言えるかもしれない。
    • 一方で形骸化している事例もある。
  • Q. 具体的に、図書館協議会の運営の「失敗」とは?
    • A. 指定管理者の選定の際に、図書館協議会の承認を得たと報告があるものの、実際は菓子折りを持って行っただけ、など。
    • 補足:アメリカでも議員が委員の推薦を行う場合がある。また、名声が欲しいだけのための人が委員になろうとすることもある。
    • 一方で、日本ほど無関心ではなく、ALA内の部会による啓蒙活動がある。
  • Q. 日本では、図書館協議会のメンバーよりも図書館ボランティアの方が社会的地位が高いような印象がある。
    • A. どうだろう。調べないと明言できないが、日本のボランティアは行政主導だったのかもしれない。
  • Q. アメリカの図書館は専門的だから、ボランティアはいない? 
    • A. 違う。普通にいる。アメリカはボランティアが一般的で、学生が夏休みにボランティアをすることが文化。
    • 補足:一方、日本では学生が夏休みにボランティアに行くという習慣はない。(被災地へのボランティアは例外だが)

参考文献

おわりに

他所のゼミ合宿に勢いでおじゃました際に、勢い余って「勉強会しましょう!」なんて言い出したことから始まったこの図書館系勉強会。なんだかんだいいつつ5回目を迎え、ちゃんと続くようになって良かったです。自分も、勉強会がなかったらこんなにちゃんと調べたりしませんでしたし、やはり「発表者」となって勉強することはタダ本を読むだけとは理解度も違っていて、自ら勉強会の効能を味わっているところです。
他の発表者の方の発表を聞くのも勉強になりますし、思わぬ着眼点に感性が刺激されたりするがとても良いです。あまり気負うと大変になってしまいますので、これからもゆるゆると続けていければいいなーと思います。