Library Student Journal (LSJ) -図書館情報学修士課程の学生が作る学術雑誌 / 日本で望まれる「学生が作る雑誌」の形とは?
前回のエントリでは見出しを修正してしまったために皆さんのブクマやはてなスターを消してしまい申し訳ありませんでした(><)
Library Student Journal(LSJ)
は2006年にthe Department of Library and Information Studies at the University at Buffalo(Buffalo大学の図書館情報学修士課程)の学生によって設立された。
著者、読者、編集委員には世界中の将来の図書館情報学の専門家を含んでおり、幅広い図書館情報学の興味深いトピックについて論文を発行している。
-Library Student Journalより
カレントアウェアネスの記事で紹介されていたように、学生がボランティアを募り、スポンサー付きのオープンアクセス雑誌として査読付きの学術雑誌は、日本でもほんとんど例をみない形です。
なぜ私がLSJに着目したかというと、ALISの定例会で提案された数多くの試みの内の一つ、『「堅い雑誌」を作る』ことを実践しているのが、LSJだと思ったからです。
LSJはゼロベースの予算で作られており、最低限の経費を個人の寄付などで賄いつつ、学生やその他の人々のボランティアによって作られています。編集委員会*1に所属している学生は氏名と所属大学を公表し、スタッフの交代があった際にはブログで公表するなど、アメリカ的に広く情報公開もなされています。
では、LSJのような活動(学生ボランティアで学術雑誌を作ること)がALISでもできれば良いと思うでしょうか?
このような記事を書いておきながらなんですが、私はそうは思いません。
LSJとALISでは大きく異なる点があるからです。
それは、一言でまとめればアメリカと日本という違いです。あたりまえのことですが、そこにはたくさんの違いが含まれています。
まず、単純ですが図書館情報学という分野の違い。そもそも、図書館情報学を学ぶための課程の制度すら、アメリカと日本は全く異なります(日本が学部課程からあるのに対し、アメリカでは学部4年間は他分野で学んだあと、修士課程から図書館情報学を学ぶ)。ですから、アメリカでは一度働いた後に図書館情報学を学ぶ学生も日本と比べて多いです。
それに、規模も大きな問題。日本では学部課程で司書資格を取得→就職というロールモデルが一般的なために、修士課程で図書館情報学を勉強しようという人はごく少数でしかない。アメリカは、まあ、言わずもがなというところで。。
ですから、需要と供給といった意味では、日本では「堅い雑誌」は望まれてはいないのでしょう。
日本で望まれるような雑誌の形態はどんなものか?
1つ考えてみたのは、「図書館情報学に限らず、周辺の分野の様々なトレンド」を「デジタルネイティブな学生の観点」から「一般の人(もしくは他分野の学生)紹介する」雑誌です。
今、図書館情報学周辺ではCode4Lib JAPANなど新しくて面白い企画がたくさん出てきています。また、長尾国立国会図書館長らが構想する電子図書館や、ブックビジネス2.0で提言されているような新しい書籍の流通形態など、コンピューターは苦手なの(><)じゃすまされないような話が、ごく当然の知識として語られつつあります。
そんな状況を、小さなころから当り前なものとしてデジタルに慣れ親しんでいたデジタルネイティブな学生の視点で語ってみるのは、面白いんじゃないかなと思います。
ただ、デジタルに慣れ親しんだ人向けのコアな雑誌になってしまったら意味がありません。自分とは違う世界観を持つ人に向けて、デジタルネイティブの世界の楽しさ、面白さを語る、わくわくする雑誌なら、望まれるものになるんじゃないかなと思います。
折しも、「雑誌」は印刷された冊子体とは限らなくなってきた時代です。PODやセルフパブリッシングなど、どんな方法で雑誌を作ることができるんだろう、と考えると、私もわくわくしてきます☆
と、LSJをネタにしつつ、実はブックビジネス2.0に感化されたエントリでした。笑
参照URL
Library Student Journal(公式Webサイト)
http://www.librarystudentjournal.org/index.php/lsj
Library Student Journalの公式ブログ
http://www.librarystudentjournal.org/blog/
カレントアウェアネスのLibrary Student Journalについての記事
E556 - 学生が創るオープンアクセス誌Library Student Journal創刊 | カレントアウェアネス・ポータル
学生が作る学術雑誌「Library Student Journal」創刊! | カレントアウェアネス・ポータル
Library Student Journal、第2号発行 | カレントアウェアネス・ポータル
Library Student Journalについて
- アーカイブはLOCKSSシステムを採用。
- 引用はAPA Style(5th edition)
- 著者はすべてthe Creative Commons Attribution-ShareAlike licenseに同意したものとみなされる。
- 査読を受けるのは4つのカテゴリーの内Articleのみ。1つの記事につき、最低3人の査読者の査読を受ける。3人の査読者の内、2人は編集委員会の担当者。
参考までに、Library Student Journalの最新号(2010)の記事タイトル
Essays
- Copy Cataloging, OCLC and United States Government Documents
- Are We Lawyers or Librarians?: Bibliographical Defenders of Information
- A Pathway to Professional Success: A Step-by-Step Guide for Creating -Posters Sessions in Library and Information Studies for MLIS Students and New Librarians
- Tribal College Libraries: Developments and Issues
Articles
- Information Literacy Seven Corners: Improving instruction by reviewing how librarians, faculty culture, professional literature, technology, and today’s college students converge
- Gender Divide in Librarianship: Past, Present and Future
- The Democratization of Metadata: Collective Tagging, Folksonomies and Web 2.0
- Information Behaviors of Cancer Patients
- The Future is Here: Query by Humming as an example of Content-Based Music Information Retrieval
- Putting the "Where" in the Archives: Internet Mapping and Archival Records
オープンアクセスなので、誰でもユーザー登録(無料)すれば、本文を読むことができます。
また、学術雑誌のLSJ以外にも、Emerging Leaders (リンク先は2009年のもの)を刊行している。Emerging Leadersは、その年に修士課程を卒業した学生で、注目すべき1人を紹介するもの。
*1:Editorial Teamのこと。 Editor in Chief, Editorial Board, Section Editors, Copyeditors, Layout Editors, Proof Readers, Publisherの7つのセクションに分かれている