第9回図書館系勉強会の記録「地域経営と政策決定」

筑波大学の隅っこで開催している図書館系勉強会の記録です。第9回の今回は「「地域経営と政策決定」をテーマに発表していただきました!記録はid:min2-flyさんによるものです。
今回も同様に、個人の主観の入った調査による発表であること、またそれが他人が聞き取れる範囲での記録になっていることをご理解いただきつつ、ご覧いただければと思います。
  

  

発表の記録

はじめに

  • 政策とは
    • 「政治が追求すべき目標とその達成の計画を示すもの」
    • 国、都道府県、市町村レベルなど色々なところで行われる
    • 広義では企業や人生の戦略も含まれる
  • 今回扱うのは・・・地方自治体の図書館政策
    • 2000年代以降・・・構造改革が大きな変化
      • 図書館政策にも大きな影響
      • 改革大綱・集中改革プランの中で図書館の指定管理・業務委託についてもよく触れられる
    • 一連の改革は相互に連関しつつ図書館に大きな影響を与える
  • 図書館政策を考えるときに:そもそも地方自治体の政策決定はどのように行われているのか?
    • 考える必要がある

  

地方自治体の政策形成の歴史:背景程度に・・・

以下の話については下記の参考文献も参照のこと

政策形成と地域経営

政策形成と地域経営

  • 明治以来の地方自治体の政策形成
    • それまでの政策は国内だけ
    • 明治維新後、欧米諸国による植民地化への恐怖が根源に
    • 薩摩・長州を中心に、下級公務員が政治を実施
      • 政治中枢はブレーキor追認の判断のみ行う
    • 政策の根幹・・・富国強兵、殖産興業、文明開化
  • 1930年頃・・・戦時体制
    • 中央から地方への補助金負担が増える
  • 戦後:1940年代
    • 復興・経済発展を国民や指導者は求める
      • 政策の体系化はなされない
      • 政策体系の欠如が戦後の政策決定混乱の原因?
    • 一方で民主主義の方針にあわせた諸政策の立案はあるが、リーダーによるものではなく現場役人による
      • 経済官僚主役の時代
  • ここまでの特徴:
    • 明治以後、公務員が政策の主役
      • 地方公務員ではなく国家公務員
    • 地方公務員は中央の政策の枠に拘束される
      • 地方分権も実質・具体的な判断のみ。中央がやれといったことに従うだけ
    • 「政策形成は中央の仕事」という思い込みが地方で形作られる
      • 自治体の政策能力は向上しない
  • 1960年代以降・・・公害問題が大きくなってくる
    • 中央政策と公害についての住民からの突き上げの間で、ずれが起こる
    • 自民党じゃない政党出身者が知事・首長になる「革新自治体」の登場・増加
      • 先進的な公害対策等
      • 中央政府はそれを追随
      • 明治以後の「中央⇒地方」の流れの逆転がこの頃から見られるように
  • 1970-80年代・・・オイルショック/財政の逼迫
    • 革新自治体の人気に自民党等があいのり・区別がつかなくなる・・・革新自治体は姿を消す
    • かわりに出てくるのが保守派勢力・・・「自分の街を大事に」
      • 「ふるさと創生一億円事業」・・・政府が各自治体に「お金あげるから好きにしろ」という政策。より地方に裁量を与える政策のはじまり
      • 函館市ではそれを使って、でかいイカのモニュメントを作る
      • 伊勢市は図書館に「ふるさと文庫」を設置
      • それが今の政策形成にも影響している・・・「地方も政策形成していいんだ、やろう」という波
  • 1990年代以降・バブル崩壊以後:
    • 国が地方分権改革に乗り出す
      • 「今後は単独事業を推奨する」
    • 次々と法律ができる
  • 2000年代:
    • 三位一体改革
    • 平成の大合併
    • 改革派知事の台頭・・・改革に答える・より推進する首長
    • 行政改革」への大注目
      • 2008年度中にすべての団体で「集中改革プラン」を作る、という取り組み
      • プランに従って定員の管理・給与の適正化・民間委託の推進が行われる
        • その中で図書館の委託についても触れられる、といった影響
      • 今は「本当に意味あったのか?」と議論されているが・・・当初は意気込んでいたらしい

  

政策の形成の過程について・・・ここからが本題?

  • 政策はどういう構造でできる?
    • 「単位政策の因果関係」を前提におく
      • 単発ではなく「これにはこれが必要、これとこれは関係しているから・・・」というのを前提に置く
      • より中庸的な目的の単位政策が上位に
      • 上の政策を実現するための下位の具体政策ができているかのチェックが重要
  • 具体的にどういうふうに作られる?
  • 1. 政策課題の決定
    • 限りある政策資源の配分が可能な範囲でしか政策立案はされない
      • 公益性、問題の大きさ、政策主体の権限の責任と範囲、の3要件が満たされないものは政策課題として認められない
    • 公益性?
      • 公の福祉に合致するか
      • 図書館の公益性?・・・公共事業/公教育
    • 問題の大きさ?
      • 質的大きさ・・・問題の因果関係が複雑で大きな広がりがある
      • 量的大きさ・・・数量的に大きな広がりがある
      • 一般に両者には関連がある(質的に大きいと量的に大きい、的な)
        • 図書館の場合・・・個人が本を読んでないのは私的な問題だが、人数が多いと量的に大きくなり、政策課題になりうる
    • 責任と範囲?
      • そもそもその問題は行政の守備範囲か?
      • 実質的に図書館に最も影響・・・民間でできないか/税金でまでやらないといけないのか/やらないといけないのはわかっていても金がない、etc…
        • この財源が問題にあって民間委託/3セクへ
    • 3つが認められると政策課題になる/図書館政策をやりたいなら、この3つを根拠として示さないといけない
  • 2. 政策の立案
    • ピラミット型に連鎖する政策体系を明らかにすること
      • 上から順に階層をなす
      • 第一段階の目的の設定⇒実現のための基本構想設定⇒基本計画を設定⇒実施計画の明確化
    • 例:相模原市の場合
      • 相模原市総合計画・・・基本構想、基本計画、実施計画を冒頭で示している
      • 基本構想:5つに分ける/5つの連関で基本構想とする
        • 図書館関係・・・「学び合い、人と地域をはぐくむ教育・文化都市」
      • 基本計画:「基本目標:政策の基本方向8」・・・「生涯を通じ学習する人スポーツする人を支援する社会つくり」
        • 図書館の充実にも言及
      • それを受けて・・・実施計画:「相模原市図書館基本計画」
        • 策定の趣旨の部分に総合計画を満たすものであることなどが言及されている
  • 3. 政策の決定
    • 立案された政策は決定権限を持つものが正式に決定してはじめて次のステップ、「執行」へ
      • しかし実質的な決定は計画の中で既に行われているなど、過程全体にちりばめられている
      • より下位の政策決定も上位の政策に従って行われる
    • 政策決定とは「意思決定」である
      • そこに必要なのは決断力
      • たくさんの中から1つだけ選ぶ/たくさんのものを消去法で減らす
        • 1つだけ選ぶ・・・ときどき間違える、といった欠点
        • 消去法・・・タイミングを逃す、といった欠点
    • 政策の決定で政策づくりは終わり

  

ディスカッション

  • Q. 政策形成の過程は国も同様?
    • A. 基本的に同様。権限の範囲等は違うが・・・
  • Q. 省とか色々あるけどどうなの? 「国としての総合計画」がある?
    • A. そのあたりは違う。公益性等の要件は同じ
  • Q. 政策の見直しはどのタイミングで行われる?
    • A. あまり行われないが「時のアセスメント」のような例も
  • Q. 財源が増えたなど、使える資源の幅が増えたときにも政策の再評価は行われないの?
    • A. 縮小はされても広がった例は聞かない
  • Q. 実際の計画は誰がたててるのか?誰に言ったらどう出来るのかはわからない
    • A. 実際にははっきりしない.各自治体の公務員がたているとは思う
  • 選挙で市長だけをかえても,何も変わらない感がある。やはりそこに実際の作業を行う公務員と市長がどう関わっていくかが大切なのだろう
  • その他の問題として,総合計画と一致してない事が欠陥である。だから現場の(公務員)の裁量が大切.勿論,首長などが理解があると良い影響も多い。その中で,相模原市の例はかなり細部まで計画が建てられている.市長も理解があって,しっかりと指示を出しているのかもしれない。また,政策課題の段階で図書館がしっかり認識されてれば,違う面もあると思う
  • 単純にどういう風に決まって行くのかが気になる。実際には生臭い所もあるだろうので,そこらへんも可能なら調べられたら面白いだろうけど,難しいだろう.特に今の事は,現職の人が関わっているから調べにくい事も.逆に昔の事だったら,当事者は既に故人となっているので,調べやすい
  • 中津川の事例にあるように.もやっと決まっているのでは?政策として首長が認識していたとしても,それが盛り込まれるとかとうとはっきりとは言えない.
  • Q. 図書館どこにたてるかの場合は?
    • A. 立案が出た時点で,政策は決定しているともいえる。だから,立案を行う公務員も力を持っている
  • きっと決める時も,何かしら検討や調査があるはず。その際は,下位の職員が色々と細かい決定を行っているであろう。もし,その中でいい加減な面があれば,色々と影響するだろう。
  • Q. 全ての事業で基本構想で決めてるのか?基本構想がない事もある?
    • A. ある.偶然見つけた相模原市はしっかりしている.
  • Q. 基本構想が無くても急に,下位の構想・計画で出てくる事も?
    • A. ある.行政政策という形もとらない事例もある。下水道の整備の場合等。だから,方向性がぐだぐだで決まってしまう事もある
  • Q. つくば市の場合は,基本構想等はあるのか?
    • A. あるのでは…?
  • ネットでつくば市の事例を見る
    • 理想的な記述が多い
    • 生涯学習に関する記述もあり
    • 下位の実施計画では「図書館」に関する記述が登場
  • Q. 地方に権限を投げる際に,広範囲の事がより小さな市町村レベル等にも影響するのか?
    • A. 改革派の人は委譲することを積極的に下位の自治体を薦めることがある
  • Q. それでは,どんどん委譲して行く流れなのか?
  • A. 多分,そんな感じなのでは?つくばは財政的に余裕がある
  • Q. 政策形成は国も同様?
    • A. 多分一緒。公共政策も一緒.基本は同じ.住民を「国民」に変えれば良い
  • 組織の構成も国と地方では同様なの
  • 国会政策は省庁ごとに決まって無い?国家の総合政策ってあるの?
  • 3要件はあるけど,3段階は無い.
  • でも教育政策等ではありそう?
  • 昔は富国強兵などあったけど,今は?
  • Q. どのタイミングで,見直しを行ったりするの?
    • A. 時のアセスメントなどは見直しの例
  • Q. 時のアセスメントって実際にどういうことをやったの?学校の授業等で習ったりしたけど。なんだかよくわからなかった.
    • A. 市民のニーズ等の変遷に会わせて,色々と計画等を見直し,修正して行こうという取り組み。
    • いろいろと時のアセスメントの事例を見る
  • Q. タイミングの話の続きだが,予算が増える事になったりした場合などにも修正は行われるの?評価の事とも関係して,可能な中での計画が大切だが,可能な範囲が広がった場合は?
  • A. 縮小は考えやすいが,拡大は?
  • 総合計画の段階ならあえて柔軟にしたりするのもあるのだろう.総合は10年単位でも,その下位の計画は3年単位だったり
  • 総合計画は10年20年.下位計画はより短い期間で設定されている。計画が予想以上に進んだ例もあり10年かかる計画が5年で終わった事例もある

  

おわりに

次回の開催は2012年1月20日(金)になりました。みなさま、良いお年をー!