県立図書館及び市立図書館における複本購入調査(「ハリー・ポッターと死の秘宝」を例に)

題目の通り、県立図書館及び市立図書館において、複本をどれだけ購入しているのか実態調査をしてみようと思い立ちました。
きっかけは、複本複本言われて問題になっている昨今ですが、本当にそんなに複本を購入しているのだろうかと疑問に思ったため。「複本問題」が叫ばれる割に、どこが何を何冊購入した、などといった具体的な話はあまり聞かないものです。
  

調査方法

県立図書館全てを調査するなんて不可能ですので、内いくつかを抜擢して調べることにしました。前回の反省から、調査数は一桁台が理想。
そこで、日本図書館協会のwebサイトで公開されている日本の図書館統計の、都道府県立図書館資料費(2007年度予算)から、2007年度資料費予算額の上位6件を選ぶことにしました。
  

図書館 2007年度資料費予算(千円/単位)
東京都立図書館 241,683
岡山県立図書館 228,479
大阪府立図書館 143,235
千葉県立図書館 113,001
鳥取県立図書館 105,496
滋賀県立図書館 100,000

  
これに加えて、各県庁、都庁、府庁所在地における市立図書館も対象にします。
方法としては、各館のwebサイトにある蔵書検索を利用して、特定の図書の蔵書状態を調べるといった単純なものです。
対象の図書は、最近発売されて最も人気のある(複本購入の対象になりそうな)図書である、ハリー・ポッターシリーズの最新作である「ハリー・ポッターと死の秘宝」にしました。併せてシリーズ初期作の「ハリー・ポッターと賢者の石」も参考までに調べてみました。*1
  

「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (上下巻セット) (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)

「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (上下巻セット) (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)

  
ハリー・ポッターと賢者の石 (1)

ハリー・ポッターと賢者の石 (1)

    

県立図書館の結果

図書館 ハリー・ポッターと死の秘宝」の所蔵冊数(冊) ハリー・ポッターと賢者の石」の所蔵冊数(冊)
東京都立図書館 1 4
岡山県立図書館 3 2
大阪府立図書館 3 8
千葉県立図書館 1 4
鳥取県立図書館 3 5
滋賀県立図書館 3 9

  
意外と少ない!と言えるのではないでしょうか?
「賢者の石」は前述どおり、寄贈本が含まれるため滋賀県立図書館の9冊といった数字も多いものではないと思います。「死の秘宝」は多くて3冊の所蔵しか確認されません。
百何件と予約が入るにもかかわらず、3冊程度の複本購入であれば、許容範囲内ではないかと思われます。
  

市立図書館の結果

図書館 所属図書関数*2 ハリー・ポッターと死の秘宝」の所蔵冊数(合計・冊)(括弧内は予約冊数) ハリー・ポッターと死の秘宝」の所蔵冊数(平均・冊/1館) ハリー・ポッターと賢者の石」の所蔵冊数(合計・冊) ハリー・ポッターと賢者の石」の所蔵冊数(平均・冊/1館)
新宿区立図書館 9 18(410) 2 19 2.1
岡山市立図書館 7 46(413)(内岡山市立中央図書館は27冊所蔵) 6.5 29 4.1
大阪市立図書館 23 111(1969)(内大阪市立中央図書館は8冊所蔵) 4.8 76 3.3
千葉市立図書館 34 56(1530)(内千葉市立中央図書館は13冊所蔵) 1.6 84 2.4
鳥取市立図書館 9 18(62) 2 20 2.2
大津市立図書館 5 9(197) 1.8 15 3

  
所蔵冊数を所属する図書館の平均で出したのは、所属する館は偏っていても相互貸借などで市内であれば均等に貸し出しが受けられると思ったからです。
それにしても、各市・区別にばらつきはありますが、岡山市立の平均4.1冊や大阪市立の平均4.8冊は、平均にもかかわらず県立図書館よりも高い所蔵冊数でした。
おそらく一番多かったのは岡山市立中央図書館の27冊所蔵でしょう。これは明らかに多い冊数ではないかと思われます。
大阪市立は市内で合計してみると111冊と抜きん出て多いですが、中央図書館のみでは8冊と、1館で所蔵するには突出して多いわけではありません。(それでも多いとは思いますが)全体の所蔵にしても、岡山市立のおよそ2倍ほどありますが、予約件数は4倍以上となっています。
一方、千葉市立図書館は大阪市立に近い1500件ほどの予約件数がありますが、所蔵はおよそ半分となる56冊しかありません。しかし、千葉市立中央図書館は13冊所蔵しており、大阪市立中央図書館よりは多くなっています。
全体的に、岡山・大阪・千葉市立は複本を多く所蔵していましたが、新宿区立・鳥取大津市立は平均して1〜2冊程度と、複本を積極的に購入していない結果となりました。
  

まとめ

「複本、複本」と問題視されるわりには、そこまで多くの図書館が複本を積極的に購入しているわけではない、といえるのではないでしょうか?
特に県立図書館に関しては、「複本を積極的に購入していない」という方針が明らかになったと思われます。*3
また、県立図書館と比較して市立図書館、特に市立中央図書館の複本の多さが問題となっているような気がします。複本をそこまで購入していない市立図書館もありますが、上記にあげた3館、特に岡山市立中央図書館の27冊は、全部購入したのであれば明らかに複本として問題になる冊数でしょう。
一方、千葉市立図書館のように、全体としては多い所蔵冊数になっても、分館や公民館分室などの多さから、平均としては2冊以下となるケースもありました。このケースの場合も、他の複本問題と同等に扱われるのでしょうか?分館や分室からの請求にも同等に貸し出しは行いますし、スペースの少ないところよりもスペースの多い箇所に集中的に保管(所蔵)しているのであれば、と考えると、また違った面が見えてくるかもしれません。
  

*1:「賢者の石」は購入した図書という保証はなく、市民から無償で譲り受けたものなども含まれている可能性があります。しかし、最近発売した「死の秘宝」に関しては、そのような図書は少ないのではないかと思います。古本で売ったほうが高いし。

*2:図書館分館、公民館図書館、移動図書館の合計

*3:「3冊」という数が複本として問題になるかどうかはまた別の問題ですが、私は3冊は許容範囲内であり複本とは言わないのではないかと思います。